みずの備忘録

どこかの国公立大の理学部生。ジオがすき。いきものも好き。

美味しい進化 食べ物と人類はどう進化してきたか

大学図書館の、教員お薦め本に置いてあったのがこの本当の出会いです。因みに教員お薦め本ですが、この本をお薦めしてる先生はK学部の方でした。理学部じゃないの…。理学部教員お勧め本はイマイチしっくり来なかったです。転学部した方が良かったかな?(嘘)

とにかくそれくらいにハマった本なので、春休み挟んでいたとはいえ2ヶ月以上借りてました。そろそろ怒られそう。

 

 

この本は、題名の通り食べ物の観点から進化について述べている本。最初の導入の章と最後のまとめの章以外は、食べ物の名前が章になっていた。「肉」「チーズ」 「パン」「野菜」「スープ」「デザート」など。

今回は「パン」「肉」「チーズ」「デザート」の章から、気になった部分を抜粋・まとめた。まずパンの章(コムギ)から

 

コムギ

農業のおこり

農業は「肥沃な三日月地帯」と呼ばれる中東地域で始まったと言われている。

そこには今も、野生のヒトツブコムギ(最古の栽培化されたコムギ)が食べるのには困らないほど多く生えている。

そこで、植物学者のジャック・ハーランが古代に使われていた刃の複製品で1時間野生のヒトツブコムギを穫ったところ、その半分は穂が落ちてしまったが手元に残ったものだけでも大量に収穫できた。ハーランの計算によると、ある一家が野生のヒトツブコムギを収穫すると、3週間で1年分の穀物を集められるという。

 

ここでひとつの疑問が浮かぶ。そんなに大量に収穫できるなら、なぜ栽培する必要があったのだろうか?農業はなぜ起こったのだろうか?

実際遺跡からは栽培化されたコムギの穀粒が発見されているのだ。

 

この答えとして、暫くは野生のコムギで生活できていたが、やはり人口が増えると体系的な栽培化が必要になったと考えられる。

また、最古の野生のヒトツブコムギの穀粒が遺跡で発見されてから、栽培化されたコムギの穀粒が見つかるまでは何千年か空白がある。

これは裏を返せば、差し迫って栽培化を行う必要が出てくるまで何千年もかかったとも言える。

因みに、野生種と違い栽培化された作物は

・落ちにくい穂

・粒が大きい

・種子の休眠性の増大

などの特徴がある。

栽培化のサインは穂にギザギザの切れ目があることである。(落ちにくい穂がふえた )

この特徴から、遺跡で発見された穀粒は野生のコムギか栽培化されたコムギかどうかを判断する。

 

※ジャック・ハーランについては以下。

https://jcmswordp.wordpress.com/2018/01/14/%E6%A4%8D%E7%89%A9%E5%AD%A6%E3%80%81%E9%81%BA%E4%BC%9D%E5%AD%A6%E3%81%8B%E3%82%89%E3%

 

進化を逆戻りしたライ麦

ライ麦は1960年代まで広く栽培されていたが、その後需要が減り、ほかの畑に雑草として生え始めた。

⇒これは実は進化を逆戻りして野生化していたのだ。

ヒトが栽培管理している時は、ヒトは刈り取った際に種子が落ちにくいものを選択していたのでそんなことはおこらなかった。しかし、ヒトがライ麦を放置し始めると、そのうち種子が落ちる遺伝子を持ったものが出来た。それは雑草が広がるのに有利なのでライ麦の遺伝子に行き渡ったのだ。

 

α‬アミラーゼ

アミラーゼはデンプンを消化する酵素である。

高デンプン食を食べる集団(日本人やヨーロッパ系アメリカ人)などは低でんぷん食のグループより‪α‬アミラーゼ遺伝子の数が多い。

また狼から家畜化された犬もデンプンの消化に影響する3個の遺伝子が変化していた 変化のひとつとして、アミラーゼ酵素を供給する遺伝子のコピー数が増えている。

これはヒトと暮らすうちに、ヒトからのおこぼれを効率よく摂取するために生まれた変化だと考えられている。

 

匂いについて

嗅覚需要細胞は鼻腔内の小さな一部分の粘膜に分布しており、ふたつの方向から入ってくる匂いに晒される。

・オルソネイザル(前鼻腔)経路

息を吸ったりなにかの匂いを嗅ぐときに使う

・レトロネイザル(後鼻腔)経路

鼻道と喉の奥を繋ぐ通路。食べ物を食べる時に出る揮発性化合物を感知。いわゆる風味。

である。

また、人の嗅覚受容体遺伝子はたった400個(象は2000)だが、脳内で反応した受容体の組み合わせや感知した分子の量により1兆以上の匂いを感知できるという。

おお!何だか4種の塩基から多様なタンパク質が生まれているのと似ているなあ。

 

サナダムシと肉食の関係

人に感染するサナダムシは3種類ある。

・牛から感染する無鉤条虫

・ブタから感染するアジア条虫と有鉤条虫。

 

私たちは、幼虫を含む肉を食べることでサナダムシに感染する。

(以下、東京都のサナダムシの食品衛生に関するページ)

無鉤条虫|「食品衛生の窓」東京都福祉保健局

有鉤条虫|「食品衛生の窓」東京都福祉保健局

よって元々は、農業が始まった1万年ほど前にサナダムシの感染が始まったと考えられた。

しかし、実は数百万年にわたっていたのだ。

 

無鉤条虫とアジア条虫は、アフリカでライオンとレイヨウ間を行き来して感染しているサナダムシの1種と共通祖先を持つ。

また、有鉤条虫はハイエナの体内で見つかるサナダムシと、同じ祖先を持つ。

このことより、私たちの祖先は、ライオンやハイエナの獲物を横取りしたものだった可能性があるのだ。なので私たちがブタやウシを家畜化した時、彼らがサナダムシに感染していたのではなく、私たちが彼らに感染させたようだ。

また、驚くべきことに有鉤条虫は料理に対する耐性を進化させてきたようである。熱ショックタンパク質を作るタンパク質が多い。

 

家畜化症候群

ダーウィンの指摘によると、野生動物と比べて家畜は

・繁殖のパターンが季節と関係ない

・全身のあちこちで毛色が欠けてぶち模様になっている場合が多い

・垂れ耳で鼻面が短く、歯が小さく、脳が小さく、尾がまきあがっている

・行動が幼く従順である

という特徴があるという。

イヌ、ブタ、ウサギやテンジクネズミといったあらゆる種類の全く無関係な家畜でもこのような一連の形質を持つ。

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従って、これら全ての形質を結びつけるような共通の遺伝的要因が潜んでいて、従順さなどの人為的選択が被毛の色の形質など全てに影響を及ぼすのか? と思われていた。

そこで1950年代、ドミトリー・ベリャーエフという育種家によるギンギツネの実験が行われた。

ギンギツネを飼育したところ、一代目は実験者が餌をやる度に殆どの狐が恐怖や攻撃性をしめした。その中から恐怖や攻撃性の表れが少なかったキツネを使って交配を繰り返した。50年後、30世代以上が経った頃にはグループ全体がイヌのように人間に懐き、家畜化症候群の解剖学的性質と生理学的性質を示した。

つまり、従順な行動を求めて選択すると、家畜化症候群が生じるのだ。

 

最古のデザート〜ハチミツ〜

オランウータンとチンパンジーは、蜂の巣を枝で探って蜂蜜とハチの幼虫を食べている。類縁の大型類人猿が食べているので、蜂蜜はヒトとチンパンジーなどの祖先が別れる前から、蜂蜜はヒト族の食事の一部だったと考えられている。

蜂蜜を食べる習慣があったことを示す直接的な証拠は、旧石器時代の壁画の大型動物の群れが走る絵と共に描かれたミツバチ・ハチの巣そして蜂蜜採集用のはしごの絵である。 また、現代の狩猟採集民の食事をみると、この生活形態にとって蜂蜜が重要であることが分かる。

 

タンザニアのハッツア族は、食事のカロリーの15%を蜂蜜から摂っている。ハッツア族を含めたアフリカの狩猟採集民は、ミツバチの巣を見つける際、ミツオシエという鳥との共生関係に助けられている。

(以下、ナショナルジオグラフィックのニュースとその画像)

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野鳥と人が蜂蜜めぐり「共生」、科学的に解明 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

 

ミツオシエの餌は昆虫で、ハチの幼虫やミツロウを食べる。ミツオシエは自分でミツバチの巣の内部には入れないが、人間の力を借りる。ハッツア族の野営地に飛び、特徴的な鳴き声を発すると、人々は「ついてこい」という合図だとわかる。そして人々はミツバチの巣を見つけると、燃え木を使い、煙でハチを大人しくさせて斧で巣を木の幹からくり抜く。 更にハッツア族は、自分から合図の声を出してミツオシエを呼ぶこともある。

ミツオシエについて行くことで、ハッツア族のハンターは、そうでない時の5分の1未満の時間でハチの巣を見つけることができ、その上ミツオシエの見つける巣は、ハンターが見つけるより立派なものである。

ミツオシエと人間の関係はいつからあるかは定かではないが、ホモ・サピエンスより、古い可能性も十分にあるのだ。

 

チーズ

チーズはマイクロバイオーム

チーズのマイクロバイオーム(チーズは、何十種もの最近や真菌から作られた微小な生態系だ、という意味ではここでは「マイクロバイオーム」という)を調べると、新種が見つかったり、起源が奇妙な微生物が見つかることがある。

例えば、多くのウォッシュチーズの皮の中には、海洋環境の細菌が棲んでいるのが見つかっている。この細菌はチーズを加工する際に使われた塩の中に潜んでいて、海から乳製品に飛び込んできたのかもしれない。

また、モッツァレラチーズとヨーグルトを作るのに使われているのが、ストレプトコックス・テルモフィルスという乳酸菌である。この無害な細菌の祖先は病原菌で、レンサ球菌性咽頭炎や肺炎を起こす菌と共通祖先から進化した。乳の中に棲む為の適応プロセスで、無毒化されたようだ。

また、ソフトチーズに生えるカビのペニキリウム・カメンベルティは他のどこにでも見つかったことの無い新種である。

これと対照的に、ロックフォールチーズの青い静脈模様を作るペニキリウム・ロケフォルティは、サイレージ、ブリオッシュ、とろ火で煮込んだ果物、材木、いちごのソルベの中、冷蔵庫の内壁の表面など至る所で発見されている。

このように、チーズには多種多様な細菌が住んでいるのだ。

穴あきチーズ!?

ネズミ=チーズが好き、というイメージを抱く人は多いかと思う。だが実際、チーズをネズミに与えても好んで食べない。

実はネズミがチーズ好きというイメージは「トムとジェリー」から来たものらしい。

また、このアニメの中には穴あきチーズが出てくる。チーズと言われたら穴の空いたチーズを想像する人も多いだろう。

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このチーズ、実在していてエメンタールチーズと言う。また、この「穴」は「チーズアイ」と呼ばれている。

では、どのようにしてチーズアイは出来るのだろうか?以前はチーズを作る際に出てくる炭酸ガスによる気泡だと思われていた。

しかし実は、牛乳を絞る際に混入する干草の微粒子によるものだという。最近は衛生管理が向上し、穴が昔ほど見られなくなったため、わざと干草の粒子を混入する業者も現れるかもしれない。衛生管理を向上させたところ、トレードマークの穴が出現しなくなってしまったとは皮肉な話だ……。