みずの備忘録

どこかの国公立大の理学部生。ジオがすき。いきものも好き。

正欲ー朝井リョウ

この本は現在、病気療養中に読んでいる。入院が決まって、暇つぶしのために本を3冊買ったうちの1冊である。

書店で以前おすすめコーナーで見かけ、友達も読んでいたのでこの本を買った。

 

この本は最初こんな一文から始まる。

(中略)

この世界が、【 誰もが「明日死にたくない」と感じている】という大前提のもとに成り立っている

(以下略)

 

そして次に、児童ポルノの記事が載っている。

▫️児童ポルノ摘発、小学校の非常勤講師や大企業の社員、大学で有名な準ミスターイケメンも 自然豊かな公園で開催されていた小児性愛者たちの’’パーティ’’

 

そして、犯人たちの名前と特徴、事件の概要が載っている。

①佐々木佳道 容疑者

食品会社に勤めていた30歳の妻がいる男性

②矢田部陽平 容疑者

小学校非常勤講師

③諸橋大也 容疑者

国公立大学3年生

 

 

その後のこの本の構成としては、主に3人の登場人物の話を章毎に順々にしている。

1人目は

寺井啓喜。

神奈川で刑事として働いている男性で、妻の由美と私立の小学校を不登校になった息子泰希と暮らしている。

2人目は

桐生夏月。

大型ショッピングセンターの寝具店で働いている女性で、人付き合いを疎ましく思っている。

3人目は

神戸八重子。

大学2年生で、ミスコン・ミスターコンが例年の目玉になっている学祭に風穴を開けようと、ダイバーシティフェスなるものを企画している。

 

本を読み進めていくうち、3人の社会の捉え方や性癖などが明らかになり、更に冒頭の児童ポルノ法違反の記事に出てきた面々も彼らの生活に登場していく。

1人目の寺井啓喜。

妻の由美がセックスの時に毎回涙を流すことがきっかけで、由美の涙に興奮するようになったことが分かってくる。

また、不登校の息子の泰希は、不登校児支援のNPO団体で知り合った、同い年の彰良(あきら)とYouTubeを始める。2人の動画にはリクエストがやってくる。啓喜は、息子に学校に戻って欲しく、それが学校に行かずYouTuberになりたい泰希と泰希を応援する由美の間にすれ違いが起こってくる。

 

2人目の桐生夏月。

異性や結婚には全く興味がなく、水しぶきに興奮するという性癖の持ち主。自分が異端の存在であることを強く気にしている。世間や周りの人間に対して妙に冷めた対応をするのもそのせいかもしれない。

中学の同窓会で、同じく水フェチの佐々木佳道と出会い、彼と結婚した振りをして一緒に暮らすこととなる。世間の異端から外れないために。

 

3人目は神戸八重子。

たまたま侵入した兄の部屋のパソコンに、性的な動画が流れていたことがきっかけで、異性の目や男性が苦手になる。唯一怖いと思わなかったのは、ダイバーシティフェスで知り合った諸橋大也だけだった。大也は大也で女性に興味がなく、(実は後に水フェチであることが明らかになる)それが八重子に恐怖を感じさせない原因のようだ。

 

 

 

この本の後半では、

佐々木佳道

諸橋大也

などからの視点からの話が続く。

 

 

この本は、うまいな、と思う表現が多い。

特にテーマであろうと思われる性、マイノリティに関するもの。

例えば

•啓喜は、由美の髪の毛から漂うトリートメントの匂いを嗅ぎ取りながら、大きく広げた足の付け根で血液が渦巻き始めたのを感じた。

・自分の全身が誰かの全身と触れてるうちは、この身体に染み付いている悲しみや寂しさの歴史が毛穴から溶け出てくれるような気がした。

・「異性愛者だって誰だってみんな歯ぁ食いしばって、色んな欲望を満たせない自分とどうにか折り合いつけて生きてんの!」

・「朝起きたら自分以外の人間になれていますようにって、毎晩思うんだ。性欲が罪に繋がらないならどんな人間だっていい。」

 

以下ネタバレ注意⚠️

水フェチで繋がりを求めていた桐生夏月、佐々木佳道、矢田部陽平、諸橋大也はネット上でその繋がりを作って生きていこうとする。そのうち夏月を除く3人が水を公園ではね飛ばして動画を撮影していたところ、運悪く佐々木の同僚の子どもが混じって一緒に遊ぶことになってしまう。その時に撮影した写真から、児童ポルノ法違反だと警察から疑われ、自分の性癖を言えないままで終わる、というのがこの本のオチである。

 

感想

まずこの世界には、色んな性癖を持つ人がいるんだなあということが分かった。そしてそれがマイノリティのために周りに理解されず苦しむことも。ダイバーシティなどと言いながら、結局この世は男性と女性が付き合ってセックスをするのが当たり前だと思われてること。

そうじゃないと変だと思われ社会の異端になってしまうこと。その性癖が人に危害を及ぼすものでは無いにしろ。

男性が女性に、女性が男性に性欲を抱くのは通常と思われ規制されないこと。

 

終わりがバッドエンドで考えさせられてとても良かった。結局啓喜の息子の泰希の不登校問題は解決しないし、水フェチである佐々木たち「わかって貰えない」と諦めて黙秘を貫いて恐らく起訴されること。せっかく繋がりができた夏月が1人になってしまうこと。

誰にとっても幸せな結末になっていないのだ。